音楽喫茶「ミニヨン」

ある研究員の方(室長が勝手にそう決めつけております。ご本人さん、ごめんなさい。)から1962年に日本コロムビアがプレスしたモイーズの復刻LPの情報をいただきました。

収録曲は、

ZL-3003がドップラー/ハンガリー田園幻想曲、ドヴォルザーク/ユモレスク、ドリゴ/セレナード、滝廉太郎/荒城の月、山田耕筰/からたちの花、多忠亮/宵待草。

(ZL-3003/'62.2.)

ZL-3008はサキソフォンのミュールとのカップリングで、グルック/精霊の踊り(コーエン指揮)、チャイコフスキー/アンダンテ・カンタービレ、ベーム/スイス民謡、ヴェッツガー/小川のほとり。ミュールがマリー/金婚式、シューマン/トロイメライ、ボッケリーニ/メヌエット、ドヴォルザーク/ユモレスク、ドリゴ/セレナード、コンベイユ/マルボロー変奏曲。

( ZL-3008/'62.6.)


このZL-3003のLPには思い出がありまして、その昔学生時代に東京は荻窪にある音楽喫茶「ミニヨン」にこのディスクがあるという情報を得て、カバンに小型カセットテレコを忍ばせて聴きに行ったことがあるのです。

その情報をくださったのは、当時僕が住んでいた豊島区東長崎近辺に住んでおられた中年女性(独身)でした。彼女とは隣町の椎名町の喫茶店で偶然知り合ったのですが、お若い頃は文学少女だったと見えて、文学だけでなく音楽、美術、その他芸術全般に大変詳しく、きまじめでおとなしい田舎育ちのKirio青年(異論は多々あるでしょうが、お話の進行上、大目に見て下さい!)をいたく気に入ったようで、ときどき喫茶店で話し込み、時にはアパートを訪れて、僕の入れたコーヒーを飲み、文学の話をしたり、蓄音機でまだ数少なかったコレクションを聴いていくようになりました。

時には、夜遅い時間に安アパートのドアを「トントン」と来るもので、隣に住んでいた友人が怪しんだりしましたが、庄司薫の小説にあるようなときめくお話ではなかったのでした。(どうも彼女、生活はあまり楽ではないようで、コーヒーが飲めて音楽が聴けるというのが魅力だったのでしょうね)今でも、好きな言葉なのですがルイ・アラゴンの「教えるとは・・・希望を語ること。学ぶとは・・・誠実を胸に刻むこと。」は彼女が教えてくれたのでした。

その彼女が、以前荻窪の「ミニヨン」でモイーズのレコードを聴いたことがある、と教えてくれたので、地図を書いてもらってさっそく出かけたわけです。

ミニヨンのオーディオ装置は、たぶん真空管アンプだったのでしょう、アナログディスクには幸せな環境だったようで、みごとな再生と初めて聴く曲を含むモイーズの演奏にびっくりした記憶があります。

中でも、ドップラーのハンガリー田園幻想曲は、昭和初期に日本コロムビアが最初の抜粋録音盤の売れ行きがあまりによいので、フランスに依頼して全曲録音されたと言われており、おそらく日本コロムビアには状態の良いマスターが保存されていたのでしょう、理想的な復刻版だと思いました。もちろん、最近のデジタルテクノロジーを駆使したマスタリングと比べれば、やや高域が落ちクリアーさにも欠ける感じはありますが、マスターが良いため、SP時代のアナログ的な良さを充分活かしたいたってシンプルな手法で、決して元データにないものは足していない良さがありました。

とうことで、研究員情報のおかげでむか~~しのことを、思い出してしまいました。

あのころはホント若かったなぁ。

(2001年6月2日 室長Kirio)


訂正('01.07.03)

『ややハイ落ちでクリアーさに欠ける感はありますが』とありますが、この時聴いたサンプリングは再生時にちょっとしたミス(バリレラ型カートリッジをステップアップトランスで受ける)があったようで、かなりハイ落ちになったものでした。このミスにはすぐに気付いたので、頭の中で正しい状態を想像して書いたのですが・・・。

その後、あらためて正常なサンプリングでの再生を聴きましたが、実にすばらしいものでした。モイーズのブレスの音の細かいニュアンスまでが明瞭に記録されています。1934年当時のSP録音は周波数レンジこそ狭いものの、原盤にはワックスではなく既にラッカーマスターが使用されており、実に「おそるべし」です。

ちなみに、このバリレラ型カートリッジですが、MM(ムービングマグネット)のカテゴリーに入るもので大きなマグネットをボディーに持ち、カンチレバーの磁性体が動くことにより発電します。MI(ムービングアイアン)とほぼ同じ構造ですが、その違いは僕には説明できません。

昔の代表的な機種にGE(ゼネラル・エレクトリック社)のものなどがありますが、日本にもソノヴォックス社のMC-4という名器があります。これはまだ現役のはずで、ラジオ放送やホール設備などでLPレコードをモノラル再生するために開発されており、横振動だけを効率よく拾って発電するように出来ています。交換針はLP用に半径の異なるものが2種とSP用に1種あり、僕もSPの再生にはよく使用します。針先のコンプライアンスが高い一般のカートリッジに比べると、微細なニュアンスではMCタイプに比べてやや劣る感じですが、肉太のフォーカスがピシッと合った音像と少々音溝か荒れたLPでもノイズ感の少ない再生ができるところが魅力です。

マルセル・モイーズ研究室

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