ルボン、ブラン、マルソー

2001年1月、東芝EMIから「ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団の芸術」という復刻CDがリリースされた。ポール・パレなどが指揮したアコースティック録音の時代からブラン指揮のLPモノラル~ステレオ時代までのギャルドやメンバーによるアンサンブルやソロ演奏、サックスのミュールまで網羅した全20タイトルだ。総てのSP盤の提供や様々な情報提供をギャルドの音源を蒐集されている木下直人氏が行ったそうで、この快挙とも言える企画も氏の存在なくしてはあり得ないものだったろう。

 なんと、先日その木下氏からメールを頂戴した。

「ルボン」をネット検索していて研究室に辿り着いたというのだが、ギャルド往年の名フルート奏者の名前を「インターネット上で見るとは思いもしませんでした」ということで、いたく喜んでいただいき恐縮した。

その木下氏からギャルドのフルート奏者として有名なマルソー、ルボン、ブラン(彼は指揮者としての方がより有名だが)の貴重な録音をご好意で聞かせていただく機会を得た。また木下氏が自衛隊の故須磨氏から提供を受けた、須磨氏がパリにギャルドを訪問したときの写真などのコピーも頂戴した。木下氏の許可を頂いたので、ご紹介しよう。


マーチ「大空」の作曲で有名な須磨洋朔氏(故人)をはさみ左が当時の副隊長のリシャール、右がアンリ・ルボン。(ギャルド来日の前年1960年)

フランソワ=ジュリアン・ブラン


須磨氏によると、当時ブランは少佐で52歳、ルボンも52歳とある。須磨氏はここで大歓迎を受け、自作のマーチと「新世界」、チャイコフスキーの「イタリア奇想曲」を指揮した。

一番手前がルボン


ルボン、ブラン、マルソー、彼らに共通するのはパリ音楽院のゴーベールのクラスを首席で卒業して、ギャルドのメンバーとして活動した経験を持つということだ。ゴーベールのクラスの首席卒業者を一覧してみるとキャリアのスタート時がわかると思う。

この中の多くのフルート吹きは多忙なゴーベールの代わり(代講)に、または卒業後にモイーズのレッスンも受けていた。

(T.ワイ氏の著書によれば、それはChefnay, Cortet, Lavaillotte, Rateau, Pepin, Brun, Marseau 等。Lavaillotte=ラヴァイヨットは1944年にモイーズをユダヤ人としてナチに通報した生徒だということだが、事実を確認する資料がないので僕はこの件を信じているわけではない。)


今回、木下氏に聞かせていただいたディスクは、

<マルソー> Fernand Marseau

ラムルー管弦楽団とのモーツァルト「フルート協奏曲第1番」(写真左上、モノラルLP=Period SPL 564 B面はランパルで、こちらもマニア必涎の音源では?)とジュナンの「ヴェニスの謝肉祭」(写真左下、LP=DECCA LS 1096)。

マルソーはコルトー指揮エコールノルマル管弦楽団の「ブランデンブルグ協奏曲第4番」で、ロジェ・コルテと共に演奏しているSP録音がわりと有名どころだが、ブッシュの録音ほどメジャーではなく僕も耳にしていなかった。今回ソロとコンチェルトを聞けたのは大きな収穫。

ジュナンは恐ろしくデッドな音響のスタジオ録音で、鑑賞には厳しいものがあるが、マルソーの演奏の詳細が手に取るように聞き取れる。

モーツァルトの演奏は設計図的にはモイーズの演奏によく似ていると思う。

<ブラン> F=Julien Brun

やはりギャルドメンバーと思われるアンサンブル(cl/HenriDruart、hn/LucienThevet、uriceAllard、SP=AMPHION AD 718)でロッシーニの管楽4重奏曲第2番。ホルンのテーヴェ、バッソンのアラールなど往年の名手がすばらしい。

ブランは、今回の復刻にも収められているモーツァルトの「フルートとハープのための協奏曲」が東芝EMIからリリースされていたが、この録音は大変めずらしいものだと思う。SPからLPへの移行期、LPモノラル時代の音源は日本ではリリースされずに終ったものも多いことだろう。ある意味、表現や技術的な面では「円熟期」と言うこともできる時代であり、残念なことだ。明瞭であやふやな表現が無く、音色も輝かしい。ルボンとブランの良いところを合わせるとモイーズに近づく感じがする。

<ルボン> Henri Lebon

ギャルド木管5重奏団(ob/G.Goubet、cl/H.Druart、hn/G.Bouteuil、bn/F.Aubecq)の録音で、ミヨーの「ルネ王の炉辺」、ピエルネの「牧歌」、イベールの「4重奏曲」(モノラルLP=DECCA FA 143 659)。

ルボンの演奏は、ギャルド来日時に録音された「牧神の午後への前奏曲」の名演が有名だが(別章で取り上げた、クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団の「ダフニスとクロエ」のソロは、木下さんが他から得た情報で、ルボンに間違いないということだった)、このギャルドの他の管楽器奏者とのアンサンブルでも対等に渡り合っている。この「対等」ということは現在のフルート界を見渡していただけば、いかに希有な状況であるかがわかるだろう。レガートが独特で、歌いっぷりは3名中一番モイーズ似かもしれない。

いずれの録音もまだ50年を経ていないため、ここでお聞かせすることが出来ないのが残念。

というあたりで、この章、この辺でおしまい。

(2001年5月3日 室長 Kirio)

マルセル・モイーズ研究室

「私の死後にも、音楽への敬意という伝統をフルートを吹く人々に残してゆきたいものだ」 マルセル・モイーズ 20世紀最大のフルート奏者の一人とも称されるマルセル・モイーズの足跡を辿るサイトです。 (スマホの方は左上のメニューバーからお入り下さい。)