Couesnon model Monopole を入手

 5月に、全く予定していなかったのだが、ある掲示板の書き込み情報からCouesnonのモイーズモデルをヤフーオークションを通じて入手することとなった。

 僕はずっとモイーズモデルは特に欲しくないと言ってきた。このモデルを手に入れることと、モイーズのような演奏に近づけるのか?ということには「全く関連性がない」反面、「楽器に個性や超能力(?)を求めない」というチョイスの上でモイーズが選んだ道具として慎重に考察する価値はあると思われる。僕はこれまで、三響フルートによってモイーズモデルをベースに開発された「CSモデル」を使ってあれこれ考察してきた。それはこの世に存在する総てのモイーズモデルが、モイーズが使用した楽器の特徴を有しているわけではなく、まして使用者の改竄によりオリジナルな形状を残しているかどうかもわからない、たまたま楽器店に列んだ「高価な中古品」を手に入れるより、信頼のおける楽器製作者とスタッフの手によって現代の楽器として「平均的な性質を有し、誰でも手に入れられる楽器」の方が色々な面で、独善的になりにくいと考えたからかもしれない。

 しかし、今回僕の前に表れたモイーズモデルは、価格が僕にとって安くはないが高すぎることもないというビミョーなレベルであり、研究用と考えても贅沢の一歩手前というあたりだった。製造番号は30000番台と決して古くはないが、顔つきはご存じのあのモデルに間違いない。某フルート工場でで全パッド交換をして、少しづつご機嫌をうかがっているところだ。

 歌口の穴は三響の僕のモデルより、やや横幅も大きくオリジナルではないかもしれない。僕には息の当たるエッジまでの距離がやや長すぎるように思うのだが、現状のままで出てくるサウンドは三響のモデルとずいぶん異なる色合いなので、リッププレートを削るのはもうしばらく様子を見てからと思っている。

 すでに手にいてれよかったと思うことがある。それは裏GisやCisトリルのホールの形状がLouis Lotなどにも見られる特殊なものであることが確認できたことだ。

写真 上 これがCouesnonのCのトーンホールなのだが、写真 下 の三響の同じ部分と比べるとチムニー(トーンホールの煙突部分)の下側の壁が内側に向かって三日月状になだらかな傾斜をしている。その結果、ホールは真円ではなく横長の楕円形となっている。

以前から話には聞いていたのだが、これは現物を見ないとちょっとイメージがわからなかった。

写真 下 三響のモデルではこれをコピーしなかった。音程の問題だけであれば、普通のトーンホールを別の位置に設ければ同じ結果が得られるし、CSモデルはそうしているはずだ。しかし、Couesnonのこのホール形状は間違いなくサウンドやソノリテに影響があるだろう。もちろん、それをねらってこういう設計をしたのかといえば、そうではなく、単純に管内に結露した水分や唾液がトーンホールに流入することによるトラブルの回避が目的だったのではないだろうか。しかし、その結果もふまえた上で楽器設計を行っているわけだから、音程だけでなく楽器全体のバランスの一要因として、このあたりも注意深く検証して行きたいと考えている。

(2003年8月14日 室長Kirio)

マルセル・モイーズ研究室

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